「空虚な自己」の発生基盤

ドナルド・ウィニコットは個体の発達過程における母親の役割を重要視し、自己を(1)「本当の自己」(2)「偽りの自己」に分けて生まれたばかりの用事に熱中する「母親の原初的没頭」があり、母親が乳児の欲求を完全に満たすことによって、用事の万能感は増強される、とした。これが阻害されるような時に幼児が持つ様になる母親代わりの愛着を持つ代理物(ぬいぐるみ等)を「移行対象」とし、これは子供の母親離れ、自律への第一歩であり、これが「移行過程」の出現。

ぬいぐるみ等の玩具で遊びながら子供には自律と創造性が生まれ、このような関係と環境、「可能性に満ちた空間」を与えてくれるのが「ほどよい母親」であり、この自発性を得て成長するのが「本当の自己」とされる。

そして、この「ほどよい母親」の役割を果たせずに「可能性に満ちた空間」が形成されなかったり崩壊すると、幼児は「本当の自己」を形成することが出来ず、真実性や主体性を発揮できなくなり、幼児は本物として通用させる「偽りの自己」を形成する。世界を敵対的と感じるようになり、自発的表現である「本当の自己」に代わって、反応的生き方が生じる。